2008年03月23日一覧

タンタル2

タンタル2は、百年以上前に開発された、普通ならとっくにお払い箱の、古いタイプの人型ロボットだ。でも、こいつは名作ロボットと呼ばれていて、ちょっとのろまだが、まだまだ、たくさん現役で働いている。

筒のような弾性金属でできた本体に、やっぱり筒のような手足が付いている。指はなんとか五本あるが、バケツのような頭部に付いている顔の作りなんかはぞんざいなもので、眉と口は上下に動くが、耳と鼻は溶接してある。唯一、目は、まばたきは出来ないものの、クルクル動くし、絞りもある。よくみれば表情豊かなのですが。

とはいっても、その顔はどうも地味なもので、私より小さな子供をしかる時は、ブリキの眉を、自分の指で持ち上げるのだった。後ろにいると笑ってしまうし、子供も慣れたもので、その眉を押し下げてしまうのだった。しかし、静かに向き合って、絞り込んだ目で見つめられるときは、少し怖かったものだ。

この、人型ロボットは、ベランダの手すりに手をかけて、じっと遠くを見つめているようなこともあって、そんな時、家の者は、昔、優秀な召使をそっくり輪切りにして解析し、この機械に埋め込んだのだとうわさするのだった。

ある日、私はタンタル2と庭に出ていた。何をしていたかは思い出せないが、タンタルがハイウエイに砂漠狐の子供が迷い込んだのを発見して、走り出した。エアカーは障害物を避けるので危険はないが、狐の子供の恐怖は相当なものだ。

私も走り出したが、すぐに我々の左を疾走してゆく親狐に気が付き、タンタルの脚に飛びついた。タンタルは、もんどりうって倒れた。このロボットは人間のアタックには脆くセットされているのだ。

タンタルはその瞬間、チラリとこちらを睨んだように見えたが、すでに親狐の姿を捉えていたと思う。目は回るし、照れくさいしで、しばらく、表情が作れず、ブリキの眉と目はあべこべに回転していた。それがやっとおさまった頃、砂漠狐は子狐をくわえて走り去っていた。

「坊ちゃん、ひどいじゃないですか!一声掛けてくれればいいものを」

タンタルはひどいオッチョコチョイで、ああでもしないと止まらないのだ。しかし、小さな金網の隙間からどうやって助けるつもりだったのだろう?

「でも、私は嬉しいんです。坊ちゃんが賢く成長したのが」

曲がった眉を慎重に直してから、タンタルは久しぶりに私を肩車して家に入ってお菓子をご馳走してくれたのだった。