木工家はなぜ貧乏なのか。

木工家が貧乏なのは、経済、市場の仕組みで決まっていることで、なにも難しいことではありません。私もそれに気づいたのは、足抜き出来なくなってからのことで、初めから分かっていれば、木工なんてしてなかったと思います。

木工は、まず作業場がいります。材料は高いです。手道具、電動工具など道具も際限なく必要です。私の場合ショールームも建てており、毎月のローンの支払いは勿論のこと、三相200Vの電気代他、2軒の家庭用電気代がいります。倉庫も借りているので家賃がいります。これでは、少々稼いでも残ることはありません。このように、木工の場合経費がかかり過ぎるのです。その都度、材料を仕入れるとか、山奥の廃校などを利用すれば大分違うかもしれませんが。

工芸の分野で一番貧乏なのは“織り”と聞きます。人間国宝の方でも、マックでバイトするより時給が少ないかもしれません。そして、2番目が木工らしいです。

経費がかかれば、その分高値で売ればよいと考えられるでしょうが、それが出来ない理由があります。ひとつは、なぜか、経費も手間もかかったものほど付加価値がつかないという、芸術界の常識があります。焼き物なんて元は土でっせ、名画の絵の具代なんて、たかがしれてます。しかもすぐ出来ちゃうんですよ。このように、人間はあやふやな、元手のかかっていないものほど、大金を出すように出来ています。私も金があったら欲しいけど。黒田辰秋の木を刳って作った小箱が大体、¥600万。加藤唐九朗の茶碗も同じくらいの値段です。刳り物の箱なんてコツコツやらなければならないですが、茶碗なんて、いい物ほど瞬時に出来ます。逆に付加価値のつかない最たるものは大工さんでしょうか、いくらいい仕事をしても時給ですからね。

もう一つの理由は、これは直に美術商から聞いた話ですが、工芸品が付加価値を生むには、数千点以上の数が流通しないと難しいそうです。やさしく言えばブランド化でしょうか。「うちには、○○先生の皿が3枚もあるざまーすよ!」「なんの、うちなんか猫の皿まで○○先生ざま~すのよ!!」てな具合です。(赤塚不二夫世代じゃないとわかりません)木工家が一年に作れる数なんて本当にしれています。そこを、弟子をたくさん取ることによってクリアーした木工家もおります。しかし、そうなると経営者としての自覚も要りますし、気ままな二日酔いなんて出来なくなるのです。

同世代の陶芸家や、弟子取ってる漆芸家が高級外車に乗っているのを見るとちょっと羨ましいけど、わびしくもあります。「もっと、勉強に使えよ!」私は貧乏すが割と満ち足りています。この辺が木工の面白いところでもあります。 

コメント

  1.  ほんとうに木工は「構造的不況業種」のように思いますね。例外の方もごく少数いらっしゃるようですが、なかには他の経済的に困窮している木工家に向かって偉そうに人生訓を垂れる方もいて、唖然としてしまいます。「実るほどに頭を垂れる稲穂かな」と私は言いたいです。
     知り合いの織・染の人も経済的には惨憺たるものですし、腕のいい大工や左官や建具屋さんほど苦労している感はたしかにあります。なんともさびしいことです。実よりも虚のほうが幅をきかせるこの国はこのまま没落していくんでしょうね……。[E:cat]

  2. kira より:

    確かに、いろいろありますね。それに、相当エグい家具の方が売れたりしていますね。木工の場合、他人を羨ましがらず、マイペースで行くのがいいですね。なんでも同じか。それから、同じ商品を量産するとお金は残るようだすね。

  3. 齋田 より:

    確かに木工やって大金持ちになったという話はあまり聞きませんね。
    例外は映画「アンドリュー」の主人公くらいじゃないでしょうか。
    それでも皆さん嬉々としてやっているのは、やっぱり木工は面白いからですよね。
    何年か前に糸鋸製品で成功している方が僕の子供イスを見て「パートさんで作れるように設備投資して、ネットで宣伝して○○円で売ればヒットするぞ」と言われたことがあるんですが、それでいったい何が楽しいんだろうと感じたものです。
    木工はマイペース、がいいですね。

  4. kira より:

    すみません、「アンドリュー」見てません。
    しかし、木工にも人生にも金は必要です。儲かりそうな仕事があれば、一心不乱にやるべきだと思います。でも、パートを雇ってまではね・・・。